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朝だ。 急ぐ私の足音だけしか聞こえない。 眠りについた褥のようなこの町は、夜にこそ息づく。 貴方は、あの隠れ家のような宿で、もう目覚めたのだろうか。 それとも昨日のめくるめくような夜を まだ夢の中で曳航してくれているのかしら。 女湯と男湯に別れて入って、庭園の見える庵で待ち合わせ。 貴方を待たせてはいけないと急ぐ気持ちを、 はしたないと思われたくない気持ちで押さえつけた。 なぜ貴方の前では子供のようになってしまうのだろう。 手をつないでお部屋に帰ると、すでに布団がのべられていた。 並んだ二つの布団はぴったりとひっついていたけれど、 わずかな力が加われば離れてしまう危うさが漂うようで、 「枕は・・ひとつで・・・いいのにね。」 不安を振り払おうと絞った声はかすれてしまった。 私の気持ちが伝わったのか、 いきなりいつもの穏やかな貴方からは想像もつかないような 強い力で抱きしめられて、 気がつくと私は小娘のように貴方の腕の中にいた。 「こんなに小さかったっけ?」 私を抱きしめて貴方は言ったわ。 「恥ずかしい・・・」 それから何を言ったのか、 何を言われたのか覚えていない。 ただ、熱くて溶けるような貴方との交わりを幾度も繰り返し、 私の中の貴方を感じて、 もっともっと感じたいと締め付けて、 歓喜の声をあげていたのだ。 そうして、 いつしか汗ばんだままの体で貴方は寝息を立て始め、 私は貴方の胸に頭をあずけたまま鼓動を聞いていた。 今この少年のような寝顔は私だけのもの・・・ |
好きになってはいけない。 私だけのものにはならない人なのだもの。 それどころか・・・ 私とのことが白日にさらされれば、 この人は破滅してしまうかもしれない。 夜が明けきらないうちにここを出なくては。 誰にも見咎められてはいけない。 静まり返った家の格子戸を音をたてないように開く。 「おかえり・・」 奥で低く、けれど突きささるような声がする。 「ただいま。」 小さくつぶやくようにして、部屋へ戻る。 もう会わない。 私の本当の名前なんか貴方は知らなくていい。 あの夜さえ忘れなければ。 いいえ、忘れてもいい。 だって、私は貴方がこんなに好きなのだもの。 それだけを覚えてくれていたらいい。 |
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