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「ここでは全身が性器になるって?体が溶けてしまうって?マイとマイの家が、人間をそうするって?よし、やってみよう。俺がもしその魔法にかかったら、俺が生きてるあいだ、あんたの息子を助けてやるよ。」 |
(略) タオル地の蒲団にうつぶせたコニーは、着ているものをすべて脱いで、野口を待っていた。背や尻は豆電球の明かりを帯びて黄色く光り、押しひしがれた乳房や横腹は、タオルの青に滲み、妖艶な曲線と光沢を作った。野口はコニーの腰から尻へと掌をすべらせた。コニーは腰をひねって上半身を起こし、野口のシャツのボタンをはずした。 いつしか野口はコニーだけでなく、マイもマイの家までも、自分の金で買って支配しているような心持ちにひたった。金で女を自由にするという、それまで罪悪でしかなかった行為は、何らうしろめたさのない加虐的な充足をもたらし、コニーの、まだ固さの残る肉体がたちどころに柔軟さを増していく瞬間瞬間の動きに取り込まれた。 途中、二度、マイが野口の汗を拭きにきた。野口がマイのほうに顔を向けようとすると、マイは聞こえるか聞こえないかの声で、 「そのまま、そのまま」 といった。マイに自分の肩や背や尻を冷たいタオルで拭かれながら、つかのま止めた動きに勢いをつけ始めると、いつマイが小部屋にさがったのかもわからなくなった。 野良犬が空腹そうな声をあげ、小舟が何回か運河を通り過ぎた。蚊取り線香の煙が充満しているのかと錯覚を起こさせるほど、マイの家には黄色味をおびた熱い霧がたちこめ、天井の染みも、窓辺の木肌もぼやけて、野口は自分の呻き声を聞いた。 確かに自分のものだとはわかったが、それは黄色い霧の奥から聞こえてきたようにも感じた。二度目にマイが体を拭きにきたとき、野口は、そのタオルの冷たさを楽しみ、小さなコニーをもてあそびながら、 「ナムチャーを持ってきてくれ」 とマイに命じた。しかし、マイは、野口の言葉が終わる前に、枕辺にナムチャーを置き、背中から腰のあたりを念入りに拭いた。それは練達した官能の刺激で、野口は我知らず、コニーの片腕を持ち上げ、その腰から胸にかけて吹き出ている汗を拭いてやれと言った。マイは野口がめいじるままにした。体を拭かれているコニーが心地よさそうに、薄目を閉じた。 野口が何杯めかのナムチャーを飲んだあと、マイは枕辺に来て、ビールをコップに注いだ。彼はうつぶせて寝たままそれを飲み、煙草をくわえた。煙草にコニーが火をつけた。いったい何時ごろなのかわからなかった。コニーは全裸のまま、仔犬のように身をすりよせ、寝息をたてた。涼しい風は、マイが作り出すうちわの風であった。 野口はマイに背を向けると眠った。それなのに、卑猥な夢に遊び、目を醒ますと、コニーを抱いた。マイへの敗北感はなかった。しかし、痺れつづけている身体のどこかで、恵子のことを思い、ほんの目と鼻の先で恵子が眠っていると考えた。彼は、このマイの家で恵子を抱きたい衝動に駆られ、しかもそうすることを異常だと思わなかった。 宮本輝の作品でこれだけ官能シーンがあるのはめずらしいのではないだろうか。作風の試行錯誤がうかがえる作品である。 |
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