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僕は悟った。この女は絶対に処女ではない。罠にかかったのはこの女ではなく、僕のほうだ。 気づくと僕はブラウスの上からではあるが、乳房を鷲掴みにしていたし、もう片方の手はタイトスカートの奥、しっとり湿った下着の核心を爪の先で戸惑いながら圧迫さえしていた。僕は誘導されていたのだ。 |
数分後には女が積極的な体勢をとり、僕の指は下着のあいだから熱の内部に没していた。だが、僕にはこうなった過程がまったく把握できていない。催眠状態に陥って誘われるがままだ。 しかも僕の触角はいつのまにか露わにされて女のちいさな拳に頼りなげに覆われ、刺激され、極限まで充血していた。僕は強姦されかかっていることをはっきりと意識した。 女も僕もいつの間にやら下半身だけ裸になりかかっているという人間の尊厳を笑いとばす無様な恰好をしている。本来の僕は着衣の女にそそられ、昂ぶるたちなのに、中途半端の極致のような状態に追い込まれて、しかも拒絶できずに奥歯を噛みしめている。 僕は女性器に興味がない。言い方をかえれば、微妙な嫌悪を抱いていた。いま僕は実際に、ある内蔵的な生臭さのようなものを感じとって、狼狽えていた。 それなのに僕の中指は痛みを感じそうなほどに締めつけられて呑みこまれ、その最奥に対する刺激を要求されている。嫌悪と昂ぶりの綯いまぜになった不幸な状況だ。 (略) 僕の中指は人並み以上に長いが、女の最奥にはかろうじて到達する程度で、余裕はない。指先は最奥に鎮座するとじた唇のかたちめいた部分をさぐりあて、その意外な筋肉の硬さに戸惑いを覚えている。僕は訊いた。これって、どこ。間抜けな質問だ。女は僕の耳朶を咬むようにして答えをはぐらかした。 (略) そういったやりとりをしている最中にも間断なく僕の触角は愛撫されつづけていたようだ。醒めていたつもりなのに、唐突に切迫を覚えた。炸裂しそうであることを訴えた。受けてあげると女が囁いた。 それから先の、トラックの座席における女の積極的な行動と体勢は記述をはばかられる。僕の予想をはるかに超えていたからだ。ともあれ僕は次の瞬間に、僕に跨った女の胎内で烈しく爆ぜて童貞を失っていた。 女が頬ずりしてきた。どんな気持ちか尋ねてきた。僕は呼吸困難に陥っていた。酸欠で霞む頭を振って、かろうじて、凄く熱くてとだけ答えた。女は頷き、僕をおさめたまま、秘めやかな動作をはじめた。 ようやく意識がもどってきた僕は心配になって訊いた。直接でちゃったけど、だいじょうぶなの。問いかけはどこか幼児語の気配があった。 女がふたたび頬ずりしてきた。かまわないと囁いた。いくらでも充たしてください、なかをいっぱいにされるのがいちばんうれしいんです誇らしいのですと請けあった。 花村萬月の芥川賞受賞作品。氏については、露悪趣味であるという方もおられるでしょう。ほとんどの作品には暴力とセックスの露骨な描写がみられます。 しかし、呵責を覚えない悪者が主役でありながら、ときにあふれるような愛が覗いたりする。私にはそれが印象に残ったり、安心感を覚えたりします。 |
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