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ベッドに入る前に女は言った。 「私、抱かれていると顔が変わるの。」 若いときからずいぶん遊んできた俺だが、 そんなことを言った女は初めてだったので、正直驚いた。 キスから始まる一連の愛撫に、柄にもなく少し緊張して引き寄せたのだが、なめらかな女の体が赤みを帯び、半開きになった口からあえぎ声がもれはじめると、そんなことはかき消されていった。 それが・・・ 女のあえぎ声がすすり泣きに似た声に変わり始めたとき、 その横顔に何かひっかかる気がした。 なんだ? 思い出しそうで思いだせない。 下手な考え休むに似たりだ。 頭から振り払うように、女の体にのめりこむ。 たしかに少し変わった女だが、抱いてしまえばみんな同じさ。 女の肌が汗ばみ、俺の肌と引き合うようになる。 たわいなくいってしまった女を見ながら、俺も動きを早める。 心拍数があがり、ゴールは近い。 頭の中が真っ白になったその刹那、 女が目を開け俺を見た。 俺は思わず息をのんだ。 |
昔つきあった女の顔がそこにあった。 いや、つきあったと言えるかどうか疑問だ。 2,3度映画を観たり、遊びにでかけた。 そして、初めてベッドを共にした後、彼女は言ったのだ。 「私、結婚するの。」 マリッジブルーというやつで、手近なとこに俺がいたというわけだ。 もちろん、連絡は途絶えた。 次に偶然彼女に会ったときは、離婚直後だった。 だからといって、つきあったわけでもない。 ただ寝て別れただけだ。 さらに、信じられないことに偶然は二度起きる。 ばったり街で出会って、ホテルへ行った。 男と同棲していると言っていた。 いったいこういう出会いは、どれほどの確率で起こるんだろう。 それからの消息は知らない。 今だって、とっさには思いだせなかった。 俺は驚き、そして自分の不実さをちょっと恥じた。 彼女を深く愛していたわけでもなく、ひどい仕打ちをしたわけでもない。 それは彼女だって、十分承知だったはずだ。 なぜ、こんなことが起きるのか? いや、なぜ彼女なのか? 動揺を隠すように、女から体を離し煙草を口にした。 横の女の顔は元の平凡な顔に戻った。 気のせいだ。 なんとなく彼女に似ていると思えば思えなくもない。 俺の携帯が鳴った。 「○○さんですか、私××子の友達で、△△と申しますが・・」 「××子?」 誰だ?・・沈黙が流れる。 「あっ。」 彼女の本名だと気がついた。 今のことがなかったら、きっとわからなかったに違いない。 彼女のことはいつもあだ名で呼んでいたのだ。 「何か?」 心臓がどきどきして、手が震えた。 「実は彼女先日亡くなったのです。最後にあなたの名前がでまして、 ご連絡さしあげたのです。」 「えっ」 俺は恐る恐るベッドの女を振り返った。 すやすやと子供のように眠る女の顔があった。 それは、もはやあの彼女の顔ではなかった。 俺は、電話を切って考えた。 彼女は天涯孤独だったという。 同棲していた男とも別れて、最後はひとりぼっちだったらしい。 人一倍家庭というものを作りたくて、けれどもうまくいかなかった 朦朧とした意識の中で、人は人生を走馬燈のように見るという。 人生の節目節目に必然のように現れた俺が、別の選択肢のように見えたのかもしれない。 偶然にしか過ぎないのに。 寝息をたてる女の横で、俺は静かに涙を流した。 彼女のために泣く者が、ひとりでも多い方がいいと思ったのだ。 (物語はフィクションで、実在の人物等とは関係ありません。) |
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